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何かを得る旅があるとすれば、何かを捨てる旅もある。

僕を駆り立てるのは、いつも後者だ。人間は常に何かを捨て続けていないと前に進めない動物だけど、きっと僕はこの作業がとても下手糞なんだと思う。

日曜の夜から木曜の朝までという時間を、僕は買った。何かをせっせと捨てるために買った。買ったからには、跡形も無くなるまで消費するだけ。
Olympus OM-1 + Zuiko 28mm F2.8 (TX)



生まれて初めて来た島根は、想像よりも少しだけ寒くて、想像よりもかなり風が強く、そして想像を遥かに超えて静かだった。
Leica M5 + Elmar 5cm F3.5 (TX)



誰もいない。
Leica M5 + Elmar 3.5cm F3.5 (TX)



やっぱり誰もいない。
Leica M5 + Elmar 3.5cm F3.5 (TX)



あ、いた。
Leica M5 + Elmar 3.5cm F3.5 (TX)



バスの本数は極めて限られている。そろそろ雲州平田まで戻ろう。今夜の宿を探さなければならないし、朝から何も食ってない。

思ひかけず斯る所にも来たれる哉と、宿からんとすれど、更に宿かす人なし。漸まどしき小家に一夜をあかして、明れば又しらぬ道まよひ行。(おくのほそ道)

さて、明日はどの道を迷おうか。
Leica M5 + Elmar 3.5cm F3.5 (TX)



10月28日

世界中どんな小さな町にも必ずあるのはチャイニーズレストランだと聞いたことがあるけれど、それは雲州平田でも同じみたいで、ゆうべは散々歩き回った末にやっと一軒の中華料理屋を見つけて温かい食事にありついた。

宿は駅からだいぶ離れたところにあるビジネスホテル。これは東京にいる仲間がメールで情報をくれた。理想は民宿か旅館だったけど、一方ではバスの待合小屋で一夜を明かすことだって覚悟していたのだから、熱い風呂と軟らかいベッドはやはり幸せである。

翌朝、せっかくここまで来たのだからと、一畑電車に乗って出雲大社へ向かう。

車両には僕を含めて2人だけ。揺られてうつらうつらしていたら、突然どやどやと小学生の集団が乗り込んで来て、列車は完全に制圧された。

僕が嬉しかったのは、こいつらが実に騒々しかったことだ。東京でも遠足に行く小学生と乗り合わせることが時々あるけれど、完璧に躾けられて大人しくしている。あれは大人として胸が痛い。島根の学校の先生は、「静かにしなさい」なんて意味の無いことは言わない。小学生の集団とはこういうものなんだから、この先生は正しい。

隣に座った女の子にどこへ行くのか訊いたら、「○○公園」と教えてくれた。「ワイナリーがあるんだよ」とも。

途中の駅で、この集団は去って行った。窓の外に向かって、僕は手を振った。彼等が振ったから振り返したのか、自分から振ったのか、そのへんはよく覚えていない。
Leica M5 + Elmar 3.5cm F3.5 (TX)



一畑電車大社線の終点、出雲大社前駅。日本有数の観光地を抱える駅にもかかわらず、実に素朴。平日の朝とは言え、降りる人も少ない。

さて、目指す方角はどっちかな?と駅前に出て、出雲大社のあまりにも立派な佇まいが遠くに見えた瞬間、案の定、気持ちが萎えた。

ただでさえ沢山の人が行くところだ。さして信心深くも無い自分が今さらそこに加わることもなかろう。

やっぱり行き先変更。
Leica M5 + Elmar 3.5cm F3.5 (TX)



駅前にぽつんとあるバス停の行き先を見たら、「日御碕」(ひのみさき)とあった。地図で確認すると、海沿いの道をくねくねと北上したところにある岬で、神社と灯台の印がある。

やってきたバスに乗り込むと思いのほか混んでいたけれど、ほぼ全員がその先の出雲大社で降りた。ところがホッとしたのも束の間、また同じぐらいの乗客が乗り込んできた。どうやら朝早くに大社を参詣して、それから日御碕へ移動するのが観光パターンのようだ。やれやれ。

終点で全員が降りる。もちろん僕も降りる。ぞろぞろと岬の方角に移動する集団にはついて行かず、バス停前にあった食堂兼みやげ物屋のような店に入る。店先で烏賊を焼いていて、その匂いにつられたのだ。とろろそばと焼き烏賊、それにビールで朝食。

テーブルの上に置いたカメラを見て、「日御碕は景色がきれいだから、いい写真が撮れたでしょう?」 と店のオバチャン。

「えぇ、まぁ」 我ながらいい加減な返事。

「ところでこっち(岬とは反対の方向)に行くと何があるの?」 と訊いてみる。

「何もないよぉ。行き止まりになって、小さな集落があるだけ。ウリュウっていうんだけど」

「ウリュウ?」

「そう、宇龍。マエバライッセイって知ってる?幕末の人らしいんだけどね、なんでもその人がどこかから逃げてきたのを、その集落でかくまったって話よ」

前原一誠という名前は日本史の授業で出てきたような気がする。

果たして寂しい山道をしばらく歩くと行き止まりになり、眼下に宇龍の集落が見えた。

その佇まいは、日だまりで丸くなって眠る老猫を連想させた。
Leica M5 + Elmar 3.5cm F3.5 (TX)



「最果て感」が強い。人口は400人とある。

帰京してからネットで「島根県 宇龍」と検索しても、情報は殆ど無い。

すれ違いざまに「こんにちは」と声をかけると、気持ちよく返してくれるけれど、「はて、どこの誰だっけな?」という戸惑いの色が微かに目の奥にある。要するに、ヨソモノにあまり慣れてないんだろうな。
Leica M5 + Elmar 3.5cm F3.5 (TX)


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