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写真集を買う。それは僕にとってかなり幸せな行為だ。

「嬉しい」でもなければ、「心躍る」でもない。「興奮する」ともだいぶ違う。もっと、カラダのいちばん深いところを静かに流れるもの。それはもう、「幸せ」としか呼びようがない感覚。

僕の一番理想的な写真集の買い方は、冬の薄曇りの朝に電車とバスを乗り継いで書店へ行き、その辺にあるカフェでビールでも飲みながら買ったばかりの写真集のページを繰る、というような状況設定で、これはカメラを買いに行く場合とも共通する。しかし実際には、amazon、あるいは美術書専門の通販サイトで買うことがどうしても多くなる。ああ、冬の朝のディフューズされた光と、買ったばかりの写真集と、冷たいギネス。僕の幸せの三元素。

ここ数年で写真集がだいぶ増えた。

以前は、写真集にカネをかけるのはもったいないと思っていた。決してお安いとは言えないものが多いし、故に「あんまり面白くないなぁコレ」と、買った後で感じてしまうのはかなわないなぁと。それに、よしんばそれがいい写真集だったとしても、買ったところでそれが何になるのだ?みたいなことを本気で考えていた。他人の写真なんか見たってしょうがないじゃないかと。写真は自分が撮るんじゃないかと。印象に残った写真を、知らずのうちに真似ているのがオチだと。そんなものにかけるカネがあったら、他に買うべきものがあるだろうと。

僕は大馬鹿者であった。

自分で写真を撮り、それを誰かに見せ、たまに褒めてもらえれば、それだけで写真の世界は完結すると思っていた。ニエプスが自分んちの庭を撮ってから180年以上、止まらずに流れてきた、写真という大河の、片方の岸しか見ていなかった。

今は、写真関係でもっとも躊躇せずにカネをつぎ込めるモノが写真集だ。もちろん僕は金持ちではない。必要経費である筈のフィルムでさえ、カネが惜しくて100フィート巻きを買う貧乏人だ。それでも、手っ取り早く、安価に(投資対効果の問題)、いつでも望んだその時に、何度でも繰り返し、確実に自分を幸せにしてくれるもの。それが写真集だから。

持っている写真集の殆どはきちんと本棚に納められているけれど、常に手に取って眺めたい数冊は手元に積み上げてある。もちろん時々入れ替わったりもするけれど、今そこにあるのは、Donata Wenders、Brassai、Willy Ronis、Mariana Yampolsky、そしてJeanloup Sieff。残念ながら日本人が無いが、もしかしたら小島一郎という人がここに加わるかもしれない。ついさっき、注文を入れた。あ、トイレにはJosef Sudekが常備されている。スデクは便通に効く。

そりゃあ、稀にではあるけれど、買ってはみたものの、「うーん・・・」となってしまう写真集もある。正直、カネをドブに捨てたような気持ちになることだってある。でも心配することはない。自分の感性や好みは時間とともに変化する。ちゃんと身銭を切って買った写真集は、死ぬまで手元に置いておけるんだから、焦ることはない。本棚に放り込まれたまま静かに熟成した写真が、何年後、あるいは何十年後に、逆に自分の好みを変えてしまうなんて、ちょっと素敵じゃないか。

まさかシーフの写真を見て感動することになろうとは、ブレッソンばかり見ていた頃の自分には想像もつかなかった。この世に無駄な写真なんて1枚もない。
Leica M5 + Summilux 35mm F1.4 (TX)



届いた「小島一郎写真集成」を見て、こりゃ、青森県立美術館まで行かなくちゃなんないな、と思った。

すごく良かったからではない。「実際に見て来りゃ分かる」話だからだ。

暑いのに較べれば寒いほうが100倍ぐらい好きだが、仙台より北へは、真冬に行ったことがない。ダウンジャケットなんていう気の利いたものは持っていないのだが大丈夫だろうか。いずれにせよ、今回はちゃんと宿を予約してから出かけた方が良さそうではある。
Leica M5 + Summilux 35mm F1.4 (TX)



また最近、気づくと知らない駅にいる。

そのまま改札を抜けて、お世辞にも活気があるとは言えない町を歩いてみたい衝動にかられるが、戻る電車が無くなるので必死に耐えている。
Leica M5 + Summilux 35mm F1.4 (TX)



青森へ行く。

目的の一つは青森県立美術館でやっている小島一郎という人の回顧展。でもそれ以上に、この厳寒の時期に厳寒の地へ出向くという行為自体に、なにやら探検めいた匂いを嗅ぎとって、居ても立ってもいられなくなった。

だから都市部はそこそこにして、今回もまた、日本の端っこの方にある小さな町や村を回る。

防寒対策に若干不安があるが、犬ゾリで北極へ行くわけじゃなし、まぁなんとかなるでしょ、とタカをくくっている。神奈川みたいな中途半端にヌルい土地で生まれ育った人間は、どうも寒さや雪をナメているフシがある。

そして、自然の手痛いしっぺ返しを喰らって、息も絶え絶えに帰還する。そういうのが理想。
Leica M5 + Summilux 35mm F1.4 (TX)



本当に息も絶え絶えで帰京し、すぐに病院送り。

鎮痛剤の座薬を10日分処方されて今に至る。

青森探検旅行は、かくの如く理想的な幕を閉じた、ってワケ。
Leica M5 + Summilux 35mm F1.4 (TX)



小さな嘘は下手糞だ。

でも大きな嘘は上手い。

そもそも嘘をついている自覚が無いから、絶対に見抜かれない。
Leica R3 + Summicron 50mm F2 (TX)



思えば、青森は因縁の地だった。

もう20年以上前の話。当時住んでいた神奈川から車を運転して青森まで行ってみる、という遊びをした。この遊びの唯一のルールは、「1mたりとも高速道路を使ってはならない」だった。

ところがというか、やっぱりというか、岩手県内を走行中に僕のポンコツは動くことをやめ、それでこの遊びは終わった。

青森県境はまだ遥か先だった。
Leica R3 + Super-Angulon 21mm F4 (TX)



今回の旅では、往復の移動手段に深夜走る高速バスを使った。寝台列車や新幹線を使った場合に較べて、費用は約1/6。このバスのおかげで、青森行きが一気に現実味を帯びたのは間違いない。
Leica R3 + Super-Angulon 21mm F4 (TX)



バスでの移動を想像して、僕はワクワクした。

ほら、昔のアメリカの小説なんかにあるじゃないか。「ボストンバッグ一つでグレイハウンドに乗り、僕は故郷を後にした」みたいなのがさ。ああいう感じかなあ、なんて。

だけど走り出して30分で僕は決心した。

もう二度とこんな移動手段は使うもんかと。
Leica M5 + Elmar 3.5cm F3.5 (TX)



Leica M5 + Elmar 3.5cm F3.5 (TX)


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